今回は2014年11月から12月にかけてお寺様の本堂で漆塗金箔押工事をしましたので、その様子を報告したいと思っています。まず現状ですが、後門柱などに金紙を貼ってあったのですが、金紙と柱との間に空気が入ってしまい、しわになってしまったので今回の工事となったわけです。まずは仏具の移動です。ご本尊を余間に移し、金灯籠や瓔珞を外し須弥壇は手前に移動します。両尊前の壇下や余間の壇下の繰り型と彫刻もその横の柱を塗るので外しました。移動した仏具は余間だけでなく外陣にも置きました。お寺様はこんなに大層に移動するとは思いもよらなかったようです。
まずは現在貼ってある金紙をはがしていきます。はがしながら、柱のへこんだ部分に地の粉(珪藻土を焼いたもの)と砥の粉(粘板岩の粉)と生漆(きうるし)を埋め込んでいきます。この技法を堅地といい、漆塗りでは最高峰の技術です。しかしながらこれをいっぺんに厚く塗るともろくなるので、塗っては研ぎ、塗っては研ぎの工程を重ねていきます。このお寺様で作業しているのは40代初めの方で、朝早くから夜遅くまでほぼ一人で根気よく作業されていました。お寺の方にもねぎらいの言葉をかけていただいたようで、職人もたいへん喜んでいました。今回お願いした漆塗りの職人さんの工房は京都では多い8人ほどいますが、工房の他の職人さんはちょうど東本願寺阿弥陀堂の漆塗工事もされている腕のいい職人さんです。一方こちらの漆塗の工期は11月5日から11月25日までかかりましたが、職人さんの熱心な作業により予定していたより早くできました。最終日には私がお寺に出向き、仕上りの確認をしました。金箔の工程に入る前に1週間ほど乾燥期間をおいて、12月2日から金箔押し工事に入りました。こちらの職人さんは親子2代でされていて、この日も二人で作業に入られました。まずは塗りぶきといって、黒い状態の柱に箔下漆を塗っていきます。漆を水で薄めるのですが、薄すぎると金箔がつかず、濃すぎると漆がねばってきれいに柱につきません。ちょうどいいさじ加減の状態にして塗っていきます。この作業も2回から3回されていました。職人さんによると漆塗りの状態がいいらしく、非常に作業がやりやすいと言っていました。金箔押しの工程は2日間を要しました。また数日置いてから、柱にコーティングをして多少衣(ころも)が擦れても、金箔がはがれないような加工をしました。12月11日には仏具を元の位置に戻して一連の工事は終了しました。最初に移動した日から数えると、一ヶ月と6日です。冬場にも関わらず順調に工事を終えられました。