今回は金属加工の中でも真鍮や銅の板を菊灯や灯籠、輪灯などの仏具をされている職人さんをご紹介します。私がこの職人さんの元へ通いはじめた20年前には兄弟で仕事をされていました。しかしながら18年前にお兄さんが逝去されてからは一人で作業されています。一人で作業というのは非常に忍耐がいります。私も金具打ちや組み立てを一人でしていた時期もありますが、納期が迫っていたり難しい仕事に直面した時、間に合うのか、乗り越えられるのか相談したくても相手もいないですし、不安も募ります。しかしながらこちらの職人さんはそれを乗り越えられてきましたので、心より尊敬します。

さて、今回は菊灯を例にあげてご説明します。菊灯には一番下の台座の部分を「菊」、棒の部分を「竿」、上の筋が入った花の形をした部分を「朝顔」などいくつかの部分に分かれています。京都の職人さんが造る菊灯の一番の特徴は一番下の菊の部分が鋳物でできています。昔の菊灯やい安価な菊灯はその「菊」の部分が薄い真鍮の板でできていますので、何かがぶつかるとすぐにへこんでしまいます。また鋳物はそれ自体に重量があるので菊灯を立てた時に安定していますが、昔の菊灯には、おもりに砂が入っていることが多いのです。しかもそれを水に薄めてお磨きする液体の磨き液につけると、きれいに洗い流しても砂の中にその成分が残ってしまい、真鍮の金属を傷めてしまいます。何回か古い菊灯の修理を依頼されたことがありますが、この液を使われている場合は修理個所が多く、土台の菊の部分におもりとなるセメントを流しこんだりしなければならないので新品と変わらないくらいの金額になってしまうこともあります。

さて工程ですが菊の部分は鋳物で製作し磨き上げしていきます。竿の部分は断面が菊の形にして上下に無地の竿を蝋付加工していきます。この竿に真っ直ぐ付けるのが職人さんの見せどころで、まっすぐにつけないと竿に他の部品が入らないだけでなく、真っ直ぐに立たないからです。そして一番上の花が咲いたような朝顔の部分は菊の筋を入れていき、上部に五徳とコードの穴を開けて行きます。またこの職人さんが製作する菊灯には2種類ありますが、極上品に比べ最上品は菊の部分の(職人さんは菊を裏返した形状が植木鉢に似ていることから鉢という)鉢の肩の部分がより張り出していて、その上に菊座が付いているのが大きな特徴です。仕上げの磨き上げは外注の磨き専門の職人さんに出されます。 

安価なプレス製に比べ丈夫で長持する京都の職人さんが造った菊灯はやはり最高の京仏具の逸品です。後継者が現在のところいないのが今のところの懸念材料ですが、この技術を絶やしたくないものです。