職人探訪【蒔絵師編】/香華堂報172号[2015,05/01発行]

蒔絵といえば、皆さん繊細で優美な世界を思いおこすのではないでしょうか。今回訪問する蒔絵師さんはその言葉を体現されている、本業の他に俳句や詩をたしなむ多彩な芸をおもちの職人さんです。京都迎賓館にも60点以上の作品を納品され名高い方です。私事ですが、この職人さんとは縁が深いです。祖父同士が蒔絵を習っていて、この職人さんは蒔絵の道に進み、お孫さんの代にでも活躍され私の方は商売の道に進んだということです。工房にはご主人の他に1人のベテランさんと6人の若い女性の職人さん計8人が働いていらっしゃいます。ご主人はお留守でしたので、ベテランの職人さんとお話しました。この方はこの道51年という方で急ぎの仕事や難しい仕事にも対応してくださっています。

さて、蒔絵といえば香合の蓋に描かれている宗派紋がよくご存知だと思いますが、そこで描かれている技法は大きく四つの技法があります。

蒔絵には写真②の右から順に1.漆で文様を描いて金を蒔いた平消し 2.漆で文様を盛上げてその上から金を蒔いた江戸高 3.漆で描いた文様に金粉を蒔き、その上に薄く漆で塗り固め、さらに漆で塗り固め木炭を使って研ぎ出して磨いていく『平磨き』4. 3番の技法を漆を盛上げてから進める漆上げ磨き、ここまでが通常、香合など仏具で使われる技法です。

よって、1番2番の技法は平らな部分か盛上げた部分に金を蒔くかの違いだけなので、文様の表面を手でこすると簡単に金がとれる恐れがあります。一方3番目4番目の技法は金粉で蒔いている上に漆を塗っていますので、表面が強固になり簡単には文様が剥がれ落ちないようになっています。3番目4番目の方が強固ですが、材料も時間もかかりますので高価になっていきます。しかしながら乾いたクロスなどで軽く拭いていただくことは可能ですのでお手入れはしやすいかもしれません。

また蒔絵に使用する材料は主に金が中心ですが、金以外にも銀や錫などの金属、蝶貝や鮑、夜光貝などの貝類を使用します。また卵の殻を細かくしたものを使用することもあるそうです。筆は漆を塗るには女性の髪の毛、特に海にもぐってサザエなどを取る海女さんの水分が含んだ髪の毛がいいそうです。細い筆の毛はねずみの脇毛や猫の毛が使われますが、近年取りづらく少なくなりつつあります。

最後になりますが③番目の写真の香合のようにいろんな色の漆で表現が可能で、文様も花や動物、楽器なども表現できますので、世界にひとつだけのオリジナル香合を考えられるのも楽しいかもしれません。