今回は漆塗りの職人(塗師屋)さんについてのお話です。漆は手が汚くなる、かぶれる、匂いもいいかおりとはいえないので、仏具の職人の中ではいわゆる3K的な大変な職種です。しかしながら、仏具の根幹を成す職種で非常に重要で、漆を塗っていない木製の仏具はないといってもいいでしょう。今回は滋賀県栗東市の浄光寺様で漆を塗りを作業した時の写真を掲載しています。
本堂で漆を塗る場合、まず手がけることは仏具を移動し、塗らない個所にビニールシートなどで養生(漆がかからないように保護)します。そして、ビニールシートで囲まれた部屋は「室(むろ)」のような状態になります。この『室』の状態をなぜつくるかといいますと、漆は通常の洗濯物のように乾燥と温度で乾くのではなく、湿気が多く温度が高いと乾く性質(=湿気があった方がよく乾く)なので、本堂の工事でもそのような空間をつくる必要があるのです。ですから塗師屋さんの工房には必ずそういう部屋があります。このような部屋を本堂でつくると、その部分だけ密閉されますので、夏は非常に温度が高くなります。暑さで倒れた職人さんもいました。逆に、冬は寒いので温度が不足し漆が乾ききらず充分に固まりません。現在は低温度でも固まるような漆ができてきましたが、昔はそのような漆がなかったため、ストーブを多く使用したという話を聞いたことがあります。
では実際の工程です。①下地調整といって木地の接合部、キズの部分に漆、糊、木粉を混ぜ合わせたものを塗り込み、②下地塗り→③下塗り→④中塗り→④上塗り→⑤蝋色仕上げという工程をへていきます。このような多くの工程を重ねていきますので、完成までに日数を要します。
私もこの業界に20年ほど携わってきましたので、漆工房に入った新入りの職人さんがみるみるうちに上達する様子をみたことがあります。最初はとまどいながら、あまり話さなかった職人さんが段々と自信をつけ、上塗りをするようになるのです。
漆塗りは下地も大事ですが、やはり最終工程である上塗りが重要です。上塗りはその工房の親方や最も熟練した職人さんが手がけます。蝋色(鏡面仕上げのような美しい仕上げ)仕上げまでされた表面のホコリやハケ跡のない美しい仕上げの漆の漆黒の美しさは見ているとほれぼれします。これぞ日本の伝統美を一番感じる仕事です。