コラム
もうすぐ、春真っ盛りですね。そして、桜の季節です。清水寺さんの門前でお土産屋をされている方にお聞きすると、この時季が一年中で観光客が最も多いそうです。なぜお寺にそんなに人々の心を惹きつけるものがあるのでしょう。それを考える前に一般的に人はどんな気持ちを求めるのでしょうか。風景を見て思う気持ちを言葉で表してみると、美しい、きれい、雄大な、すがすがしい、癒しなどがあげられます。また、若い人がコンサートに行くのは、かっこいい、一体感、気分がすがすがしくなるなどがあげられます。じゃあお寺へ行くのはなぜでしょう?前者の要素はもちろんのことですが後者の要素もあります。例えば、福井の永平寺へ行った時に、丸坊主にされた雲水さんが並んで歩いていらっしゃった時にすがすがしく、かっこいいいなあと思いましたし、本堂で数人がお経を上げてそれがきれいに揃ったとき、一体感と読み上げた後には気分がすがすがしくなります。しかしながら、そういった気持ちを求めてお寺を訪ねる方は、観光で行かれるのですから、多くはうきうきした気分で行かれます。一方、四国八十八ヶ所めぐりは観光で行かれる方もいらっしゃる方もおられますが、こちらは大きな心の傷を背負って巡られる方もいるとお聞きします。そして、その傷をどうにかしたい、癒したいと思われるのではないでしょうか。それでは、真宗のお寺さまはどちらに当てはまるのでしょう。私が思うにはどちらにも当てはまらないと思います。中にはどちらの要素も備えたお寺さまがありますが、多くはご近所にある一番身近なお寺が浄土真宗のお寺さまのような気がします。しかしながら、スパイスとして、現在の一般大衆の気持ちも汲み取ると、もっと違う浄土真宗のお寺の形が見えてくるかもしれません。
私のお寺めぐり(第十回)
円(えん)成寺(じょうじ)
【宗派】真言宗御室派
【所在地】奈良県奈良市忍辱山町1264
寺伝では天平勝宝8年(756)聖武・孝謙両天皇の勅願により、鑑真和上の弟子、唐僧虚瀧(ころう)和尚の開創と書かれています。しかし、史実には平安中期に命禅(みょうぜん)上人が十一面観音を本尊として開基したのが始まりです。のち浄土信仰の寺となり、仁平三年(1153)に仁和寺の寛遍が真言密教の一派忍辱山流を起こし、鎌倉時代に堂宇整備を整備しました。応仁の乱の兵火で伽藍の大半を消失。後に再建し江戸時代には山内に23ヶ寺ありましたが、明治維新後は衰退しましたが、近年本堂の解体修理、仏像の補修、庭園整備、多宝塔を再建されました。
山号は「忍辱山(にんにくせん)」といいます。奈良市郊外にあるため、人も少なく静寂さが漂う寺院です。そのため、車で行くと奈良駅周辺から約15分程度ですが、バスを利用すると、日に数便しかありませんので、事前に時刻表を調べる必要があります。
なんと言ってもここのお寺さまの見所は1999年に国宝の指定を受けた運慶作の大日如来像です。木像ではこの大日如来像が唯一の国宝です。この像の台座には「大佛師康慶実弟子運慶」の墨書に花印があり運慶の青年時代の作品と推定できます。仏師さんの間でも人気の高い仏像です。この他に重要文化財の楼門や春日造の本堂も見所です。円成寺の奥は「柳生十兵衛」でおなじみの「柳生の里」です。
時期『11月の紅葉 夏でも涼しい』
仏像『多宝塔 大日如来像(平安時代)』
建築『楼門(室町時代)重文』