先日、京都御室(おむろ)の仁和寺(にんなじ)へ行ってきました。ここの宸殿(しんでん)は大正時代に建立されており、設計者は東本願寺勅旨門(ちょくしもん)も設計している京都府の技師、亀岡末吉氏です。ひとつひとつの彫刻や金具が大変繊細にできていて、私も数回行きましたが、何度見てもそれぞれの美しさに惚れ惚れします。今、よくお世話になっている彫刻の職人さんの話によると、この亀岡氏は職人に発注する際に大きさや図柄だけでなく、彫刻の深さなども指定されたそうです。実際、その亀岡氏が指示された図面を、その職人さんに見せてもらいました。図柄の見事なのは勿論ですが、細かく模様が描かれていて細部にわたり彫りの深さも指示されている図面を見て驚きました。私も、仏具を製作するにあたり、職人さんと打ち合わせはいたしますが、仏具の場合はおおむね図柄が決まっているので確認はいたしますが、それ以上の細かなことまでは指示しません。私はこの話を聞いた時、思わず、“はっと”しました。当然のことながら、この亀岡氏もここまでになるには多くの建築物や彫刻を見て相当に勉学に励まれたのだろうと思われます。自分がややもするとあぐらをかいていることに恥ずかしくなりました。亀岡氏のように絵を描いたりすることは元々の才能で到底無理なことですが、大きな指針となる人物が現れて、これから益々勉強していかなければならないと深く考えました。そして、少しでもいい建築いい彫刻を見て自分の素養を高めていいものを残していきたいと思いました。最後に仁和寺は遅咲き(4月中旬~下旬)の“御室のサクラ”でも有名なお寺です。近くに石庭で有名な龍安寺もあり気持ちが落ち着くところです。
コラム/香華堂報38号[2003,03/01発行]
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