職人のつぶやき
蝋色師(ろいろし)編
漆が塗りあがった上をさらに艶を出すのが私らの仕事です。お仏壇の扉や須弥壇の框(匂欄下の大きな板の部分)など仏壇、仏具でも特に黒漆の目立つところを、この蝋色仕上げでします。艶を出すだけで形のない仕事と呼ばれることもありますけど。
工程は、表面を炭で研ぐ「炭研ぎ」、生漆(きうるし)をすり込む「すり漆」、光沢を出す「磨き」の三段階からなりますねん。炭で漆塗された表面をつるつるにし、漆を塗り込み、それを磨いてゆき、鏡のような艶を出していきます。最後の磨きは鹿の角の粉を使います。粒子が細かく磨くのに適していますねん。磨き方も特徴がおますねん。驚くなかれ。なんと磨くのに、手のひらを使います。始めて四,五年は皮膚がカチカチになって、マメやタコに苦しみます。五,六年経つと柔らかくてきめの細かい“職人の手”になるんです。
塗師(ぬし)屋さんもいろいろ特徴がおますから、それぞれのクセによってやり方も変えなあきまへん。もちろん、塗師やさんと同じように温度や湿度にも気を使います。特に朱塗りなどの“色もん”は気をつけますな。なぜなら朱は下地が黒の漆、使ってまっさかいに、あんまり強く磨くと下地の黒が出てきます。そしたら、もう一回塗り直し。時間は取られるわ。仏具屋さんには怒られるわ。さんざんですわ。まっ、そんな時もありますけど、仕事が仕上がると自分でいうのもなんですけど、やる前のものとの違いにほれぼれしまっせ。自分の顔が、鏡のようにきれいに写りますさかいに。いつまでも自分の仕上げたものも、心も曇らんようにがんばりたいもんです。まっ、つぶやいてんと、そろそろきばりまひょ。
仏具の話
本願寺派宮殿
本願寺派の宮殿は入母屋造りに正面にも妻があるところから出隅三方妻屋根造りといいます。軒は唐破風になっています。柱は8本あります。母屋(本体部分)の6本と軒の部分の2本です。最上品になりますと、後軒付といい、後方部分にも軒が出ています。横からみても立派な造りですが、後方に軒がでますので、須弥壇の奥行きが深くないと置くことができません。向板(ご本尊の後ろ側の板)が開くタイプのものもあります。こうしておきますと、万が一の場合、後堂から御本尊を運び出すことができます。
御本尊が大きい場合は台座も大きくなるため、軒の2本が狭く手前から運び出すことができません。その場合は大谷本廟型という軒の柱がないタイプがございます。その場合、本体部分が大きくなりますので、両側袖の彫刻が付いておりません。
西の宮殿の特徴は屋根の下を支える組物です。その組物の一部がお酒の枡(ます)の形をしていることから、それを枡組(枡組)と呼びます。この段数が多いほど、上等の造りといえます。屋根の瓦部と礼盤(基礎部分)の天板以外はすべて金箔押しです。それゆえ、先ほどの枡組もより豪華な印象を受けます。その構造は耐久性よりも建物の美しさを表現した屋根の形といえます。