職人のつぶやき(仏師編・表具師編)・仏具の話 (本願寺派前卓)/香華堂報30号[2002,07/01発行]

職人のつぶやき(仏師編)

 彫刻師の中でも、仏像を彫る職人を仏師と呼びます。運慶、快慶、名前くらいご存知やと思いますが、この時代、仏師は『職人』であり、また、『僧侶』やったんどすなあ。仏師はお経のこともよく分ってんとあきまへん。なぜなら、仏像はお経の中の儀軌(ぎき)に基づいて彫っていきますさかい、仏法にどっぷりつかりんてんと、仏像が彫れへんかったんと思います。今は、先人がたくさん、ええ見本作ってくてますさかい、ありがたいですわ。そやさかい、仕事も新調よりも修復を数多く手掛けます。修復は、山の麓(ふもと)のような湿気の多い地域の仏さんは内部が腐食していることが多いです。御仏像の定期検診も必要かもしれませんなあ。ところで、数年前の阪神淡路大震災の時の、御仏像は大変でしたわあ。言葉でははばかれる状態の仏さんをいくつも、御修復しました。御仏像は仏具みたいに、金ぴかにし直すことは少ないです。不足した部分を補い、漆を塗り替え、金箔を押し、そして、また、漆などで、

 

職人のつぶやき(表具師編)

 表具って一口にいうても、掛軸から、額、襖、屏風など、さまざまなものがありますなあ。その中でも掛軸は表具の基本です。なんでかというと木を半分に切った半月(はんげつ)状の『八双』(はっそう)に紙を吊るすわけですし、表の本紙と裏打ちした紙がバランスよく乾かないと真っ直ぐになりません。また、紙の伸び縮みをよう知ってんと、きれいにできしまへん。さて、順をおって仕事の話しまひょか。修復の場合は、まず絵や書が描かれた本紙を外します。粉々になったものでも、ピンセットで、細かく拾い上げていき、また、元にあったところに、ジグソーパズルのように付けていきます。気が遠くなる作業ですわ。もう無くなってしまったところは紙自体を同じように染めて貼り、補彩していきます。本紙が絵絹(えぎぬ)の場合は裏からも彩色して、絵の奥行きを出すものもあります。そして、出来上がった時に、直したことが分からないように鈍い色合いを使ったりもします。こうして、出来上がったものに回りの裂(きれ)を付け、裏地を付けていきます。最後に、上の八双と、下の丸い軸木(じくぎ)を付けて、完成です。掛軸はあんまり強く巻いたらあきまへん。巻きすぎると、本紙が傷みやすいからです。より大切にする場合は中に太くまけるように心棒を入れて、巻くこともあります。書の場合、墨汁は表具する時ににじんで、掛軸に向きません。時間はかかりますが、墨をすったものを使うて下さい。一生懸命かかはったもん、やっぱり、きれいに仕上げなあきまへん。特にお寺のものは、多くの人が見て、長いこと吊るしまっさかいになあ。まっ、つぶやいてんと、そろそろきばりまひょ。

 

仏具の話 本願寺派前卓

 前卓は香炉、花瓶(かひん)そして、ローソクを立てる火立を置く机です。それゆえ、御本尊をご安置する須弥壇よりも低く、巾が狭くなっています。お仏壇の場合は具足(花瓶や香炉)を置くスペース上、広くなっている場合もあります。本願寺派の前卓は六鳥型と三鳥型があります。これは、『仏説阿弥陀経』の中に浄土には六種の鳥がいて、浄土を荘厳していることにちなむものです。向って右から白鵠(びゃっこう)、孔雀(くじゃく)、鸚鵡(おうむ)、舎利(しゃり)、迦陵頻伽(かりょうびんが)、共命之鳥(ぐみょうしちょう)と六羽の鳥の彫刻が配されてます。袖彫には阿吽(あうん)の龍が脇を固めています。 三鳥型の場合、前卓に使う場合と、祖師前と御代前にそれぞれ三鳥型の卓(しょく)を置き左右あわせて、六鳥になります。卓の上に載っている薄い板を下須板(げすいた)といいます。そして、その両側に付いているものを、筆返しといいます。五具足を置く場合、より、机の上を広く使いたいということで、それが、取り外し式にすることもあります。最近は平常時と、法要時に卓を移動するため、底に小さな車輪を付けることもあります。浄土の荘厳を表す華麗な机といえるでしょう。